報告:多文化間メンタルヘルス研究会「留学生のハラスメントについて」(2018年3月10日、京都)
JAFSA多文化間メンタルヘルス研究会 実施報告
テーマ「留学生のハラスメントについて」
実施概要
日 時 | 2018年3月10日(土)14:00-16:00 |
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会 場 | 京都大学日本語・日本文化教育センター 講義室・国際交流多目的ホール |
講 師 | 岡益巳(岡山大学グローバル・パートナーズ 留学生相談室 特任教授) |
参加者 | 27名 |
実施報告
今年度の研究会では、岡山大学の岡益巳氏を講師にお迎えし、「留学生のハラスメントについて-留学生相談室の立場から-」の演題でご講演をいただいた。
岡氏が1999年から現在に至るまで留学生相談を担当してこられた中で深刻な相談は年間約40件(全体の約13%)を占め、そのうちハラスメント関連の事案は年間5~6件であった。1999年11月~2016年3月で岡氏が対応されたハラスメント関連事案114件(延べ相談回数1235回)のうち、セクハラ事案22件、セクハラとアカハラ両方を含んだ事案1件、アカハラ事案73件、その他18件であった。
セクハラ事案23件のうち女性が被害者の事案は20件で、文系専攻が多い。留学生が被害者の事案は8割弱、加害者側の事案は半数強であった(その他は教員・日本人学生・外国人研究者、学外のケースもあり)。加害者は(学内の場合)処分され、被害者留学生は研究室を移動する(所属を移動したケースと、院生研究室を別の建物に移動したケース)などしている。事案の9割以上は、学内関係者や警察との連携、または岡氏から加害者に対し警告することで解決した。
アカハラについての相談内容には「指導が厳しすぎる」「指導放棄」「専門が自分と異なる(が指導教員の変更が許可されない)」「いやがらせ・いじめ」等のケースがあり、8割強は指導教員が加害者であったが、研究室スタッフや先輩大学院生のケースも見られた。ただしアカハラの場合、全73件のうち留学生本人が相談に訪れたことを所属部局に知られることを望まない(事実関係が確認できない)ため「どちらとも言えない」ケースが25件、留学生側に問題があったケースも12件あった。アカハラ事案全体のおよそ4分の1のケースで留学生は精神的変調を来していた。
「指導放棄」を訴える相談についてはアカハラ事案に該当するケースが多かった一方、「指導が厳し過ぎる」との相談には「どちらとも言えない」もしくは「該当しない」ケースも多く見られた。専攻別に見ると、理系・生命系の留学生からは「指導が厳しすぎる」との相談が多かった一方、文系留学生からは「指導放棄」の訴えが多かったのが特徴的であるが、指導教員とのコミュニケーション不足が見られたケースが目立った。アカハラに該当した(事実関係が確認できた)ケースについては、正式な訴えが提出されなかった等を除く8割強の事案は解決できた。
以上を総括した今後の課題として、セクハラについては留学生が被害者だけでなく加害者になるケースも多く、新入留学生オリエンテーションなどでの注意喚起が重要であり、ハラスメント防止対策室では(アカハラを含む)日英併記の防止パンフレットを作成して周知徹底を図っている。またアカハラについての訴えのうち「どちらとも言えない」事案には指導教員との明らかなコミュニケーション不足が見られる事案が多かったが、相談に使用した言語の半数が日本語であったことを考えると、教員側がコミュニケーション能力の向上と丁寧な対応を心がけることで、多くの事案が回避できると考えられる。
当日は岡氏より上記の分析を、具体的な事例と対応されたご苦労を含めてご講演いただき、大変興味深く拝聴した後で、参加者からのアカハラ事案の事例提供を受け、主に留学生のハラスメントのケースで注意すべき点についてグループに分かれて討議後、内容の共有を行った。岡氏のご講演を踏まえてのディスカッションには大変熱が入り、予定の時間を大幅に超過しての討論となった。
岡氏、事例提供者、ファシリテーターの酒井崇氏(名古屋大学国際教育交流センター特任講師:精神科医)、および企画運営にあたられた大橋敏子氏並びに京都大学教職員の皆様に心より御礼申し上げたい。
岡村光浩(神戸芸術工科大学)

★多文化間メンタルヘルス研究会については、こちら をご覧ください。
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