報告:多文化間メンタルヘルス研究会「トラウマとそのケア」(2019年3月16日、京都)
JAFSA多文化間メンタルヘルス研究会 実施報告
テーマ「トラウマとそのケア」
実施概要
日 時 | 2019年3月16日(土)14:00-16:30 |
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会 場 | 京都大学吉田国際交流会館 第1・2講義室 |
講 師 | 元村直靖(大阪医科大学教授、日本トラウマティック・ストレス学会会長) |
参加者 | 24名 |
実施報告
2018年度の多文化間メンタルヘルス研究会では、大阪医科大学の元村直靖氏(日本トラウマティック・ストレス学会会長)をお招きし、「トラウマとそのケア」についてご講演いただいた。元村氏は、阪神淡路大震災を身近で体験された方でもあり、また大阪教育大学の教員時には、池田小学校事件の現場で初動対応されるなど、我が国におけるトラウマケアの先導者としてご活躍されている。
トラウマ反応とは、命の危険が伴う極度の恐怖体験によって引き起こされる「異常な状況に対する正常な反応」のことをいう。日本では、地下鉄サリン事件や阪神淡路大震災などのテロ事件、自然災害を機に注目されるようになり、DSM-5(精神障害の診断と統計マニュアル第5版)の中では、急性ストレス障害(ASD)や外傷後ストレス障害(PTSD)に位置づけられる。
このようなトラウマ反応を生じている被災者や被害者への支援の場では、まずは「安全・安心感」の確保、水や食料、避難所や住居の確保が第一優先であり、メンタル面のケアは、中長期的な視点で関わることが重要である。一方で、支援者へのメンタルヘルス対策という点では、「セルフケア」と同時に「組織的なケア」が勧められるようになっている。実際、アメリカの教本の中では、具体的な対策例(有休取得、フィットネス会員権の配布等)が掲載されているが、日本においてはまだまだ浸透していないのが現状であると述べられた。
もし学校という現場において、トラウマティック・ストレスによる強いトラウマ反応を呈する学生がいた場合には、サイコロジカルファーストエイド(PFA)を参考に、まずは心的外傷後ストレス反応の症状説明(リーフレット)を行い、ノーマライズすること、さらに、信頼できる家族や友人にその体験に対する感情を語ることを促すなどの支援方法をご教授いただいた。
また参加者から教育現場での事例(PTSD症状を呈する外国人留学生への対応)の提供があった。ファシリテーターである国際大学カウンセラーの石橋道子氏からディスカッションの要点が提示され、参加者は4グループに分かれて、活発な意見交換を行った。最後に全員で検討結果を共有した。
外国人留学生のメンタル支援をする側は、その学生の母国の情勢なども鑑み、文化や習慣、タブーの違いなども考慮した上での適切なアドバイスや対応方法が求められる。特に、日本への留学が「長期」か「短期」かによって、「何をどこまで扱うか(支援の見通し)」といった初期アセスメントの重要性が語られた。なお、「つなぎ先」としては、学校の保健室(学内資源)の活用や、学外資源では、無料の行政相談窓口等の活用などが挙げられ、日頃から外部とのネットワーク作りの必要性・重要性についての意見も多数あった。今後も外国人留学生、そして外国人労働者数は増える傾向にあり、教育現場に限らず行政、企業、法人等において多言語での対応ができる体制を整えておくことや、専門家以外の関係者がメンタルヘルスに関する基本的な知識を学び、組織として機能できるような体制の構築が求められるだろう。
最後に、本研究会を開催するにあたり、支援の基礎をご教授いただいた講師、ファシリテーター、事例提供者、および企画運営を担ってくださっている本研究会代表の大橋敏子氏(京都大学)、ならびにご協力くださった京都大学教職員のみなさまに心より感謝の意を表する。
橋上 愛子(東京海上日動メディカルサービス)

★多文化間メンタルヘルス研究会については、こちら をご覧ください。
※本研究会に関心のある方は大橋敏子氏まで直接ご連絡ください。